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大阪高等裁判所 昭和41年(行コ)115号 判決 1968年2月26日

控訴人 協和海運株式会社

被控訴人 運輸大臣

訴訟代理人 鰍沢健三 外七名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、控訴会社が、昭和三二年二月二五日資本金一〇〇万円を以て設立され同時に税関貨物取扱人の免許を受け、かつ同年一一月二七日神戸港一種第二、〇七〇号を以て運輸省より一般港湾運送事業登録もうけていたこと、および控訴会社は、港湾運送事業法の改正に伴ない前記運送事業の免許を受けるべく、昭和三七年九月二四日被控訴人に対し一般港湾運送事業免許の申請をなしたところ、被控訴人は、控訴会社の事業内容等が同法第六条第一項の第二号、第四号の免許基準に適合しないという理由を以て昭和四〇年九月一一日付を以て前記申請を却下する旨の処分をなしたことは当事者間に争いはなく、また控訴会社がその頃右処分書(記録一四一丁添付のそれ)の送達を受けたことは、被控訴人の明らかに争わないところである。

なおまた、<証拠省略>によれば、控訴会社が旧来(前記免許申請前)から営んでいたものは、神戸港における一般港湾運送事業のうちの業務の範囲が「荷主の委託を受けて行う個品運送貨物のはしけ運送及び沿岸荷役」に限定されたもので、(旧)港湾運送事業法規則中の別表第二、一般港湾事業、第一群港湾(神戸港等を指称する。)の欄の四番目に掲記されている「海運貨物取扱事業」と同一のものであり、通称限定一般港湾運送事業或は乙仲業と呼称されているものに所属し、そのうちの特に"

二、そこで、本件の争点である前記免許申請却下処分の適否について考えることとする。

(一)、まず、右却下処分の内容に違法があるか否かについて検討する。

1、被控訴人は、本件免許申請が港湾運送事業法(以下、単に"(以下単に第二号、第四号ということもある。)の各免許基準に適合しないとして右免許申請を却下したものであるが、右却下処分当時における右法条の規定を掲げると次のとおりである(証拠省略。因みに、右法条第二号は、その後昭和四一年法律第八四号を以て現行法条どおり改正されているものである)。

第六条第一項

運輸大臣は、港湾運送事業の免許をしようとするときは左の基準に適合するかどうかを審査して、これをしなければならない。

第二号 当該事業を適確に遂行するに足る労働者及び施設を有するものであること。

第四号 当該事業の経理的基礎が確実性を有すること。

2、右各条号の趣旨は、一般的抽象的な不確定概念を以て行政行為の要件(免許基準)を規定しているものと解せられる。

そして、行政庁(国)が権利を付与する行為(特許、免許等)は、法律上特に覊束する規定が存しない以上原則として行政庁の裁量行為であると解すべきである。従つて、本件においては、右のような不確定概念による規制が存する以上、免許賦与権者たる被控訴人は、免許に当つてこれら要件(不確定概念)に該当するか否かを法の目的に照らしつつ客観的な経験則に従つて判断する必要があり、その限りにおいて、被控訴人は右概念規制に拘束せられるものであつて(いわゆる覊束裁量行為)、これに反した場合には、当該行政行為は、その内容において違法が存するものと解するのが相当である。

3、ところで、港湾運送事業法の諸規定の趣旨に、<証拠省略>を綜合すると、事業法のいわゆる第二次改正(昭和三四年法律第六九号)の結果、港湾運送事業は、すべて従来の登録制から免許制に切り替えられたが、その趣旨とするところは、港湾運送の現状が中小企業者の濫立のため事業者間に無秩序状態を生じ、健全な港湾運送事業の発達を期待しがたい状況にあるので、これを免許制に改訂することによつて、事業者の経営の安定を策し、これに健全な経営継続の義務と責任を自覚させ、かつこれを賦課すると共に、利用者の安全保護の立場から業務監督を強化し、以て一段と港湾運送機能の充実をはかる必要があるという点にあること、そして、右目的に沿うべく、前記港湾運送事業の免許基準(事業法第六条第一項各号)を制定し、以て従来の登録制下の要件より規制の強化がはかられたこと、および、従つてこの免許基準は登録制当時の登録基準より厳密であつてこれを下廻るものであることは事業法第一条の規定等から観察するも到底考えられないものであり、被控訴人においても、右の趣旨に基き免許基準の運用をなすよう覊束せられているものであることをそれぞれ認めることができる。(これに反する証拠は存在しない)。

4、そして、<証拠省略>によると、

(1) 、被控訴人は、前記免許基準の運用について、免許申請経由の下部機関たる各海運局長(港湾運送事業法施行規則第一条第二項、以下参照。)における受理や内部審査の必要もあつて、通達の方式を以て、その運用基準を定め、これを以て免許基準の適合性の標準と定めていること。

(2) 、右運用基準のうち、本件の限定一般港湾運送事業に関する前記第二号と第四号の免許基準については、被控訴人は次のとおり定めている、即ち

イ、まず、第二号の"4;についてであるが、

(イ)、被控訴人は、その施設の能力(個数)が当該事業に対し予想される通常の需要を処理するに適当なものであつて、具体的には、(旧)港湾運送事業法施行規則(昭和二六年六月二〇日省令第四七号、以下単に「旧施行規則」という。)に定める労働者および施設に関する登録基準を下廻らないものを以て基本的な運用基準と定めたこと。

(ロ)、右の旧施行規則時における登録基準とは、限定一般港湾運送事業(海運貨物取扱事業)にあつては、別表中(一)記載のような施設基準(ただし、はしけ基盤のもの)であつたこと、なれ右の施設基準に「所有」とあるのは六か月以上の期間の定めのある使用貸借、賃貸借または期間傭船契約に基いて使用する場合を含む趣旨であること。

(ハ)、しかし、神戸港等においては、前記施設基準のうち上屋等の保有が困難な事情にあつたことから、被控訴人は、神戸港等における前記運送事業について施設基準の一部免除を認めると共にその反面年間取扱数量に新らしく規制を設けて運送事業の適正規模の確保に努めたこと、そして、はしけを基盤とする限定一般港湾運送事業にあつては、(上屋野積場皆無の場合においては)別表中(二)記載のような施設基準を以て補充的な運用基準と定めたこと(なお、<証拠省略>によれば、別表中(二)の記載に「所有」とあるのは、六か月以上の期間の定めのある使用貸借、賃貸借、または期間傭船契約に基いて現に当該事業所において使用可能なものであるものを含む趣旨であることを認めることができ、これに反する証拠は存しないところである)。

ロ、次に第四号の"#34;については、被控訴人は、具体的な運用基準としては、「当該事業の事業計画を維持しつつ、永続的経営が可能かどうかについて、収支見積、資金計画等の適否とその確実性を以て適合性を判断し、なお既存の登録事業者等にあつてはその経営分析をも合せて検討し、右の適合性を決定する」と定めたこと。

5、被控訴人は、右のとおり運用基準を定めたものである。そして、記録に表われた諸事情および前記認定の諸事実ならびに港湾運送事業法の本旨をも総合勘案するとき、右の運用基準は、法の目的に適合しかつ客観的な経験則に従つて定められたものとして適正な裁量権の範囲内における取扱準則(むしろ法の要求する最低限度の適正施設の確保をなすもの、)として、適法のものであると解するのが相当である。

6、そこで、進んで本件免許申請の適合性を、右運用基準と対比しつつ、検討するわけであるが、

(1) 、まず、前記第二号の施設基準につき考えてみよう。

イ、<証拠省略>(本件港湾運送事業免許申請書)によると、控訴会社は、本件免許申請に際しては自ら所有する上屋および野積場とも存しないものとしてその免許申請をなしているものと認められる(これに反する証拠はない)から、被控訴人所定の運用基準のうち別表(二)の補充的な基準に適合するか否かが結局のところ右免許申請の前記第二号施設基準の適合性を決定する基幹となるものというべきである。

(イ)、そこで、まず現場労働者の数について考えるに、運用基準上は六名以上の雇傭を要するとされるところ、控訴会社がその事業計画上六名以上の現場労働者の確保をなしていることは、当事者双方の認めて争わないところであるから、この点、前記免許申請は施設基準に適合しているものと認めるのが相当である。

(ロ)、しかし、その稼働施設等についてみるに、

a、控訴会社の本件免許申請<証拠省略>によると、控訴会社は次の船舶五隻すなわち、

第一西完丸 二三〇積トン

第弐金栄丸  六〇積トン

共栄丸    六〇積トン

金比羅丸   六〇積トン

住吉丸    九〇積トン

を借用しこれを専用しうる旨の事業計画の存することを前提に右申請をなしているものと認められるが、しかしながら、他面、<証拠省略>によると控訴会社は、前記のとおりの五隻五〇〇積トンの船舶を確保していたものでも、また確保できる見込みがあつたものでもなく、現に昭和三九年一一月一一日当時の調査時においては、控訴会社は、神栄丸一三〇積トン一隻を所有し、幸福丸一二〇積トンと住吉丸七〇積トンの二隻を一年間の約束にて借受け従つて、右三隻、計三二〇積トンを専用船舶として確保しているに過ぎない、ことが認められる。

b、そうだとすると、控訴会社が前記施設基準のうち稼働施設等に関する要件(基準)に適合するためには、(一)はしけ二五〇積トン以上を所有していること(この点は前記のとおり充足している。)のほか、なお(二)引受貨物の全量もしくは標準的な引受量以上(年間約二五、〇〇〇トン)を直営しなければ、すなわち控訴.会社が保有のはしけを用いて最少限度年間約二五、〇〇〇トンの貨物運送取扱を直営する能力を有しなければその免許基準(施設基準)に適合しないものになるというべきである。

c、しかるに、<証拠省略>によれば、控訴会社の昭和三六年九月から翌年八月までの過去一年間の取扱貨物量は、一五、八二四トンであり、かつ取扱量が漸増の傾向にあるから控訴会社としては、年間約一八、〇〇〇トンを以て事業計画の目標としていることが認められる。また、<証拠省略>によると、控訴会社の爾後の取扱貨物量は、

昭和三七年七月から翌年六月までの一か年間に 一三、三三四トン

昭和三八年七月から同年一二月までの半か年間に 七、五四六トン

(年額 一五、〇九二トン)

昭和三九年四月から翌年三月までの一か年間に  七、〇九〇トン

(ただし、右は、はしけ積却分で、ほかに突堤直積分が二、九九三トンあり、総計すると一〇、〇八三トンとなる。)

であり、かつ今後右取扱量の大幅な増加が望みがたい状勢にあることが認められる(以上各認定に反する証拠は存在しない)。

d、そうすると、控訴会社の右取扱数量は、その事業計画において約一八、〇〇〇トンであるに止まり、また免許申請時の前後数年間におけるはしけ利用による年間取扱量も高々一五、〇〇〇トン内外で施設基準たる年間約二五、〇〇〇トン以上を大幅に下廻るものでかつ今後急激に取扱量増大の傾向が認めがたいのであるから、いまかりに控訴会社が右取扱量をすべて直営したとしても(全部が直営でないと推測される資料として<証拠省略>がある)、控訴会社の事業内容および計画は、右説示の点すなわち、稼働施設等に関する施設基準(補充的な運用基準)に適合しないものというのほかはない。

(2) 、次に、前記第四号の"ついて考えてみる。

イ、この点の運用基準は、前記認定のとおり、要するに事業計画維持能力、経営永続能力を査定すべく、収支見積資金計画の適否と確実性、ならびに(控訴会社等については更に)経営分析の結果を参照して綜合的に適合性を判断するというにあるものと、解される。

ロ、いま、控訴会社について考えてみるに、

(イ)、まず、取扱貨物量については、事業実績、事業計画とも、運用基準を大幅に下廻つていることは、前認定のとおりである((1) イ、(ロ)の項、参照)。

(ロ)、控訴会社の収支決算の結果を見るに、昭和三七年三月期においては、欠損金一、三四一、八八八円、同三八年三月期においても欠損金一、四八四、〇〇〇円、同三九年三月期においても欠損金九二六、〇〇〇円を出し、同年三月期における欠損金累計額は金一五、二五六、〇〇〇円に達し、かつその経営規模(資本金一〇〇万円、年間売上高約金二、〇〇〇万円)からは、欠損金の早期解消は到底望めないことは、<証拠省略>によつて認めることができる(これに反する証拠は存しない)。勿論、控訴人は、控訴会社はその後昭和三九年度(昭和四〇年三月期)において金二一万余円、昭和四〇年度(昭和四一年三月期)において金一七万余円の各収益を挙げていると主張しているが、仮りにそうであるとしても、収益額自体、右欠損金等と対比するとき微少のものであるから、これを以て直ちに控訴会社が欠損金の早期填補をなしうる確証となすに足りるものではないものと解するのが相当である。

(ハ)、次に、控訴会社の借入金につき考えるに、<証拠省略>によると、控訴会社の借入金の額は、昭和三七年三月期においては、金六、一九六、六三四円であり、昭和三九年三月期においては、金一三、一八七、〇〇〇円に達していることが認められ(これに反する証拠はない)、そうすると、資本金(金一〇〇万円)に対する借入金の倍率が昭和三七年三月期において約六・二倍、昭和三九年三月期において約一三・二倍であること、および後者が前者の二倍以上に激増していることは、算数上明白である。

(ニ)、最後に水揚高ならびにこれと経費との関係をみるに、<証拠省略>によると、控訴会社は、昭和三七年三月期においては営業収入(水揚高)が僅々金六〇二万余円であつたのが、その後逐年六〇ないし八〇パーセントの増収を示し昭和三九年三月期には金一、九八〇万円に及ぶ営業収入(水揚高)を獲得するに至つたが、前記のとおり借入金も倍増するという様な関係もあつて経費の削減が成らず、遂に純益を生ずるに至らなかつたことを認めることができる。

ハ、以上のとおりであつて、これらの諸事実を綜合勘案してみるとき、控訴会社は、収支相償わず資金計画も十全でなく、取扱貨物量も標準貨物量に比して相当寡少で経営の維持が容易であるものと推測しがたく、資本金に比して欠損金額は膨大であり、早期解消の見込が存しないものであつて、結局のところ、控訴会社は、事業計画維持能力、経営永続能力に欠けるものと認めるのが相当であり、そうだとすると、控訴会社の事業内容および計画は、経理的基礎の確実性の点においても適合しないものというべきである。

7、以上の次第であるから、控訴会社の事業内容および事業計画は、事業法第六条第一項第二号、第四号の免許基準に適合しないものというべきであり、従つて、被控訴人が、控訴人の本件免許申請について前記免許基準に適合しないとして右免許申請を却下した処分は、適法であつて行政処分としてその内容において少しの瑕疵も存しないものというべきである。

(二)、次に、本件免許申請の審査手続に不公平、不公正等の違法が存したか否かの点について検討する。

1、控訴人は、請求の原因第三項(二)、1において控訴会社より低位の事業所が免許を与えられており不公平、不公正な取扱があつたと主張し、かつその具体的な事例および会社名を(1) から(4) に区分してこれを列挙し、なお同(二)、2において右会社のうちその後倒産しているものも数社あると主張しているが<証拠省略>を綜合すると、

(1) 、控訴人主張の右会社等は、すべて所定の免許基準に達していたもので、いずれも控訴人の主張す、る(1) から(4) 列挙の不適合事由は存しなかつたし、そうであるから、それぞれ免許を受けているものであること。

(2) 、控訴会社と右会社等とを取扱上差別したことは少しも存しなかつたこと。

(3) 、それのみでなく、改正法の免許基準も旧登録業者を標準としたものであつて、運輸省はじめ下部関係機関においても、是正すべきところは是正して旧登録業者には極力免許を受けられる様勘案する方針を立て、そのため改正法の説明会を開いたり、また各地の実情に合うよう免許の運用基準を補正したりしたこと、それで神戸海運局管内(兵庫県下)においては、旧登録業者のうち免許却下処分となつたものは、控訴会社と神戸富島組の二事業所に過ぎなかつたこと。

(4) 、そして、控訴人についても、免許基準について内部審査をした神戸海運局の所管係官等において、控訴会社に対し数回に亘り免許基準に合致するよう補訂するよう指導し最後にはこの儘では免許を受けられないおそれがある旨極力念達したのに拘らず、控訴会社においてその点の努力を払わなかつたこと、その後神戸海運局長は、調査書を付して本件免許申請書を運輸省(港湾局長宛送付しており、右係官等において控訴会社を殊更免許却下処分に陥れるような意思や配慮は毛頭存しなかつたこと。

を認めることができ、これに反する<証拠省略>は、にわかに措信することができないし、他に右認定に反する証拠は存在しない。

なお、控訴人主張のように、既に免許を得た事業所でその後倒産したものが存した事実は、立証がないから明白でないが、かりにそういう事実があつても、当該事業所が免許当時免許基準に適合していなかつたものと速断しうる資料とはなしがたいところである(況んや、被控訴人が手続上不公正、不公平な取扱をしたことの資料とはなしがたい)。

2、右説示のとおりであつて、そうだとすると、被控訴人は本件免許申請に関して公平適正な措置を採つていたものであつて、控訴会社のみ特に厳格に取扱つたこともなく、却つて被控訴人は、改正法の趣旨を撤底すべく適正妥当な措置を採つていたものであつて、控訴会社に対しても極力免許に外れないよう努力を払つていたものというべきである。

3、その他、本件免許申請について手続上不公平不公正その他手続上の瑕疵が存したことについて、主張立証の存しないところであるから、被控訴人のした本件免許申請却下処分の審査手続には控訴人主張のような不公平、不公正その他手続上の瑕疵は少しも存しないものというべきである。

(三)、最後に、右免許申請手続に関する行政指導上に過誤が存在したか否かについて検討する。

1、まず、控訴人は、本件免許申請書ほか二文書が神戸海運局運航部港運課鷲尾係長により受理された際預り証が発行され、この預り証は、適格者(免許基準該当者)に交付せられるものであると主張し、成程右預り証が発行されていることは、<証拠省略>によつて認めることができるが、しかしながら、右甲号証の記載によつても、前記免許申請書等を受理したという事実以外に、何らかの効力の存する事実も認めがたく、かつ右甲号証即ち預り証なるものは、経由機関たる神戸海運局の所管部課の発行したものであつて、かつまた、免許の許否自体は、運輸審議会の諮問を経て運輸大臣たる被控訴人自ら決定すべきものであるから<証拠省略>、前記預り証の交付を受けたものが当然免許の適格者と誤信したものとすら思料しがたいものというべく、従つて本件免許申請書受理につき担当部課係員より右の預り証の交付があつたことを以て、当該免許申請者を免許適格者と看做し、またはそう誤信させるような行政指導上の過誤があつたものとは到底断ずることはできない。

2、次に、控訴人主張の請求原因第三項(三)、2の事由につき考えるに、控訴人主張の船舶三隻合計三二〇積トンが控訴会社所有の船舶として、免許基準審査上取扱われていることは、前認定((一)、6(1) 、イの(ロ)項参照。)のとおりであり、また<証拠省略>によれば、右三隻については控訴会社の船舶として船舶番号を定め、その旨を神戸海運局長から、控訴人宛通知書の送付があつたことを認められるところ、控訴人は、担当係官において右三隻の船舶を控訴会社以外の者の保有船舶に該当すると看做して、爾後において反対の坂扱をすることは行政指導上重大な過誤を侵していると主張しているが、かかる反対の取扱をしたことを認めるに足りる証拠はなく、却つて、<証拠省略>によると、右三隻の船舶が控訴会社から最終的に申出があつた船舶で、調査の結果控訴会社の使用可能なものであつたが、右三隻の船舶だけでは三二〇積トンしかないから、それのみでは免許基準に達しないので、更に免許基準に達するよう指導していたことが認められる。従つて、控訴人主張のような行政指導上の過誤は存しないものというべきである。

3、最後に、控訴人主張の請求原因第三項(三)、3の事由につき考えるに、同事由を認めるに足りる証拠は存しないのみならず、前記認定事実((一)、6、(2) のロ各項、参照。)によれば、かりに控訴人主張の決算期を待つて、その当時における新事実(純益の存したこと等)を勘案してみても、到底控訴会社の事業内容および計画が免許基準に到達しうるものと認めがたいから、同事由に存するような、行政指導上の過誤は存しなかつたものというべきである。

4、そうすると、控訴人主張のような行政指導上の過誤は認められないし、他に、被控訴人が行政指導上の過誤を侵したと認めるに足る主張立証はなんら存在しないところである。

三、そうすると、被控訴人のした本件港湾運送事業免許申請却下処分は適法であり、なんら違法なところは存しないものというべきである。

よつて、控訴人の本訴請求は(爾余の点につき判断するまでもなく、)失当であり、これを棄却した原判決も結局のところ相当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三谷武司 西内辰樹 砂山一郎)

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